患者さまから鍼やお灸についてよく質問を頂きます。
その中でも、「鍼やお灸がなぜ痛みに効くのか」についての質問が多いです。
確かにステンレスや銀など細い鍼を体内に刺入したり、お灸をすえるだけで痛みや炎症が和らぐのは不思議に感じるのはごもっともだと思います。
鍼やお灸の痛みの軽減効果には、様々な説があります。
この記事では、いつも患者様に説明をしている内容をお伝えします。
患者さまに納得して頂けているので一定の説得力はあると考えています。
豪鍼(ごうしん)による鎮痛効果
ヒトの身体には、自らの体内に「身体の痛みを和らげる機能」が備わっております。
痛みがない状態では、その「痛みを和らげる機能」が抑制されています。
「痛みを和らげる機能」の抑制は、脳内にある「GABA作動性ニューロン」と呼ばれる神経線維の働きによって行われています。
つまり、痛みがない状態では、「GABA作動性ニューロン」の働きによって、「痛みを和らげる機能」にブレーキがかかっているのです。
鎮痛効果を発現するには、ブレーキがかかっている「痛みを和らげる機能」を解除する必要があります。
「痛みを和らげる機能」の解除は、「β-エンドルフィン」や「エンケファリン」と呼ばれる脳内物質が「GABA作動性ニューロン」に働きかけることによって行われます。
「β-エンドルフィン」や「エンケファリン」は、内因性オピオイドと呼ばれており、鎮痛に関わっている脳内物質です。
少し話がややこしくなってしまいましたが、「GABA作動性ニューロン」の働きを解除することで、鎮痛効果が発現されるのです。
そのような鎮痛機構を「下行性痛覚抑制系」を呼ばれております。
下行性痛覚抑制系は、皮膚や筋肉への鍼刺激によって、賦活されます。
皮膚や筋肉には、「ポリモーダル受容器」と呼ばれる感覚のセンサーが分布されています。
ポリモーダル受容器は、鍼刺激によって興奮される受容器です。
ポリモーダル受容器が興奮されると、「下行性痛覚抑制系」が賦活されるといわれております。
鍼刺激を与えると、皮膚や筋肉にある「ポリモーダル受容器」が興奮し、脳内で「β-エンドルフィン」や「エンケファリン」の分泌が促進されます。
「β-エンドルフィン」や「エンケファリン」によって、「GABA作動性ニューロン」の働きが抑制されると、身体の痛みを和らげる作用が発現されます。
つまり、皮膚や筋肉に鍼刺激を加えると、脳内で「内因性オピオイド」の分泌が促進され、その「内因性オピオイド」の働きによって、鎮痛効果が促進されるのです。
学術的にも解明されている内容なので、説得力はあると考えています。
患者さまには、「下行性痛覚抑制系」のメカニズムを用いて、鍼による鎮痛効果についての説明をしております。
研究者や専門家の方々からみたら、抽象的な内容になっていると思います。
可能な限り、専門的な用語を使わず、分かり易さを重視し、掲載内容の正確性を損なわない様に心掛けました。
ローラー鍼やてい鍼による鎮痛効果
患部を撫でたり押したりすることで痛みが少し和らいだという経験は、多くの方がお持ちだと思います。
患部を撫でたり押したりすることによる鎮痛効果は、「脊髄分節性鎮痛」によるものです。
分かりやすくいうと、「痛い痛いの飛んでけ」です。
脊髄分節性鎮痛は、皮膚に分布されている「触圧受容器」が興奮することによって、鎮痛効果が発現されます。
ヒトの身体には、受容器と呼ばれる感覚のセンサーがあります。
受容器には、ぶつけたりするなどの痛み刺激に対して反応する「侵害受容器」、寒さや熱さを感じたときに反応する「温度受容器」などがあります。
その他に、皮膚を撫でたり押したりするときに反応する受容器として、「触圧受容器」があります。
つまり、患部を撫でたり押したりした時に、皮膚の「触圧受容器」が興奮することによって得られる鎮痛効果が、「脊髄分節性鎮痛」なのです。
ローラー鍼やてい鍼と呼ばれる鍼は、体内に刺入しない「刺さない鍼」です。
皮膚を優しく撫でたり押したりする用途で用いられます。
ローラー鍼やてい鍼による鍼の皮膚刺激は、脊髄分節性鎮痛の機序を利用した治療法です。
なお、指圧などのマッサージによる鎮痛効果の機序も、脊髄分節性鎮痛によるものです。
また、ローラー鍼やてい鍼による皮膚刺激は、副交感神経を優位にし、心拍数や血圧を下げる効果があります。
さらに、脳波を下げ、快楽物質である「ドーパミン」が分泌されるともいわれております。
心身のリラクゼーション効果をもたらしてくれるのです。
ローラー鍼やてい鍼による皮膚刺激は、「脊髄分節性鎮痛による鎮痛効果」と「皮膚刺激によるリラクゼーション効果」を得ることが出来ます。
皮膚を撫でることによる鎮痛効果
患部を撫でることによって、痛みが軽減する身体の反応は、「脊髄分節性鎮痛」と呼ばれる鎮痛効果によるものです。
脊髄分節性鎮痛は、皮膚を撫でることによって、刺激部位付近の「触圧受容器」が興奮することで得られます。
触圧受容器とは、皮膚を撫でたり押したりした際に興奮する感覚のセンサーです。
触圧受容器が興奮することで、脊髄分節性鎮痛による鎮痛効果が発現されるのです。
脊髄分節性鎮痛に大きく関わってくる学説として、「ゲートコントロール説」があります。
ゲートコントロール説は、現在では否定されている学説ではありますが、脊髄分節性鎮痛を語る上で、高頻度で出てくるキーワードです。
ここでは、脊髄分節性鎮痛に関連するゲートコントロール説について、お伝えしてまいります。
ゲートコントロール説とは、脊髄分節性鎮痛の機序を説明する学説です。
- ゲートコントロール説では、脊髄に「外部からの痛み刺激の侵入を防ぐするゲート(門)」が存在すると主張しています
- その「ゲート(門)」の働きは、皮膚を撫でるなど、触圧受容器が興奮することによって、活性化されます
- 皮膚を撫でるなど、「ゲート(門)」の働きが活性化されることによって、外部からの痛み刺激が抑制されます
- 「ゲート(門)」の働きによって、脊髄分節性鎮痛による鎮痛効果が発現されるのです
しかし、脊髄には、そのような「ゲート(門)」は、存在しておらず、現在では、ゲートコントロール説は、否定されています。
脊髄分節性鎮痛の存在自体は、否定されていません。
皮膚を撫でることによる鎮痛効果は、間違いなく存在しているのです。
脊髄分節性鎮痛による鎮痛効果を意図した治療として、ローラー鍼やてい鍼を用いた鍼治療があります。
ローラー鍼やてい鍼は、体内に刺入しない「刺さない鍼」です。
ローラー鍼やてい鍼を用いて、皮膚に触圧刺激を与えることで、刺激部位付近で「触圧受容器」が活性化されます。
刺激部位付近で「触圧受容器」が活性化されることによって、脊髄分節性鎮痛が発現されます。
ローラー鍼やてい鍼による鎮痛効果が得られるのです。
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自律神経の失調への鍼治療
心地良い鍼刺激は、脳波をα波とし、副交感神経を優位にする効果があります。
脳波には、α波、β波、θ波などがあります。
- α波は、目が覚めていて、リラックスモードの時に見られる脳波です
- β波は、目が覚めていて、活動時に見られる脳波です
- θ波は、睡眠時に見られる脳波です
また、心地良い鍼刺激は、快楽物質である「ドーパミン」が体内で分泌させるともいわれております。
心身のリラクゼーション効果をもたらしてくれるのです。
何かとストレスの多い現代社会は、交感神経が優位になりやすい傾向があります。
交感神経が優位の状態が続くと、筋肉が緊張状態になり易くなり、肩こりや首こりにつながる可能性が出てきます。
また、血管の収縮によって、筋血流量が低下し、筋肉内に発痛物質や老廃物などが滞りやすくなります。
滞っていた発痛物質や老廃物は、筋肉の更なる痛みを引き起こし、首や背中の筋肉の痛みのスパイラルにつながってしまう可能性が出てくるのです。
肩こりや首こりによる症状を緩和する為には、筋肉の緊張を和らげ、筋血流量を高めることが大切になってきます。
鍼は、刺激部位付近での血行を良くする効果があります。
鍼刺激によって筋血流量が高くなると、筋肉内の発痛物質や老廃物を洗い流し、鎮痛効果や疲労回復につながることが期待出来ます。
鍼治療は、肩こりや首こりによる自律神経の失調を整え、心身のリラクゼーション効果をもたらしてくれるのです。
毫鍼(ごうしん)による筋血流量の増加
毫鍼を用いて、筋肉に鍼を刺入すると、筋肉の血流量が増加します。
そして、毫鍼による筋血流量の増加は、筋肉内にある血管が拡張されることによって、行われています。
毫鍼は、鍼治療の現場で最も多く使用されている鍼であり、体内に刺入する目的で用いられています。
少し複雑な話になってしまうかもしれませんが、鍼刺激による筋血流量の増加のプロセスをお伝えします。
- まず、筋肉に鍼を刺入すると、筋肉内にあるATP(アデノシン三リン酸)、ADP(アデノシン二リン酸)、AMP(アデノシン一リン酸)、アデノシンと呼ばれる物質が、筋肉内で漏出されます
- それらの物質の中でも、ATP(アデノシン三リン酸)、ADP(アデノシン二リン酸)、アデノシンは、血管拡張作用に関わるといわれております
- 次に、ATP(アデノシン三リン酸)、ADP(アデノシン二リン酸)、アデノシンは、筋肉内の血管にある受容体に働きかけることで、NO(一酸化窒素)が合成されます
- NO(一酸化窒素)の作用によって、筋肉内の血管が弛緩し、血管が拡張されます
- そして、筋肉内の血管の拡張によって、筋血流量が増加します
鍼による筋血流量の増加は、筋肉への物理的な鍼刺激によって、行われているのです。
また、鍼通電療法は、筋肉の収縮を伴う為、より高い筋血流量の増加が期待出来ます。
筋血流量が高くなると、筋肉内に滞っている発痛物質や老廃物を洗い流すことにつながります。
鍼刺激による筋血流量の増加は、筋肉の鎮痛効果や疲労回復効果が期待出来るのです。
皮膚や筋肉の血流を良くする鍼治療
皮膚や筋肉に刺鍼をすると、鍼の刺激部位付近で、一時的に皮膚が赤くなる反応がみられます。
それは、軸索反射によるフレア反応(紅潮斑)です。
フレア反応によって、皮膚や筋肉の血管が拡張し、刺激部位付近での血流量が多くなります。
鍼治療によって、血流が良くなるのは、軸索反射によるものなのです。
ヒトの身体には、外部刺激に対する数多くの感覚のセンサー(受容器)が、皮膚や筋肉などに分布されています。
受容器には、熱さな冷たさを感じるときに反応する「温度受容器」、擦られたり押されたりしたときに反応する「触圧受容器」などがあります。
それらの受容器の他にも、鍼灸刺激によって反応する「ポリモーダル受容器」が存在します。
ポリモーダル受容器は、皮膚や筋肉、そして関節に分布されており、鍼灸刺激によって興奮します。
ポリモーダル受容器が興奮することで、軸索反射が発現されるのです。
- 皮膚や筋肉に鍼刺激を与えると、刺激部位付近でのポリモーダル受容器が興奮します
- ポリモーダル受容器が興奮すると、刺激部位付近で、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などの物質が放出されます
- CGRPは、血管拡張作用があります
- CGRPなどの物質の作用によって、刺激部位付近で血管が拡張され、皮膚が一時的に赤くなるフレア反応(紅潮斑)がみられます
- 鍼刺激によって、皮膚や筋肉の血流量が多くなるのです
鍼刺激によって、皮膚や筋肉の血流が良くなると、鎮痛効果や疲労回復効果が期待出来ます。
皮膚や筋肉の血流が良くなると、滞っていた発痛物質や老廃物を洗い流すことにつながるからです。
鍼刺激による軸索反射は、刺激部位付近での鎮痛効果や血行促進効果をもたらしてくれるのです。
なぜお灸に痛みを和らげる効果があるのか
お灸には、身体を温めるだけでなく、身体の痛みを軽減させる効果があります。
ヒトの身体には、お灸による皮膚刺激によって反応する「ポリモーダル受容器」と呼ばれる感覚受容器が存在します。
灸刺激によって、「ポリモーダル受容器」が興奮することで、刺激部位付近で血行が促進されると同時に、鎮痛効果が発現されるのです。
感覚受容器とは、痛覚などの外部刺激に対して反応する感覚のセンサーです。
例えば、撫でられたときに反応するセンサーである「触圧受容器」、お湯や冷水に触れたときに反応するセンサーである「温度受容器」などがあります。
感覚受容器の中でも、「ポリモーダル受容器」は、お灸や鍼の刺激に対して反応する感覚のセンサーであり、主に皮膚や筋肉、そして関節に分布しています。
まず、施術部位にお灸をすえると、刺激部位付近に分布している「ポリモーダル受容器」が興奮します。
次に、灸刺激によって興奮された「ポリモーダル受容器」から脊髄を介して、脳に到達します。
その次に、脳内において、「β-エンドルフィン」や「エンケファリン」などの脳内物質が分泌されます。
「β-エンドルフィン」や「エンケファリン」というのは、身体の痛みを軽減させる作用がある脳内物質(内因性オピオイド)です。
それらの脳内物質が作用することで、鎮痛効果をもたらしてくれるのです。
また、灸刺激によって得られた「ポリモーダル受容器」の興奮は、鎮痛効果の他に、血行促進をもたらしてくれます。
その血行促進の効果は、軸索反射によるものです。
皮膚にお灸をすえると、その刺激部位付近で「CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)」や「サブスタンスP」と呼ばれる物質が放出されます。
「CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)」や「サブスタンスP」などの物質の作用によって、刺激部位付近での血管拡張、フレア(刺激部位付近で皮膚が一時的に赤くなる反応)などがみられます。
刺激部位付近で血行が促進されると、滞っていた発痛物質や老廃物を洗い流し、痛みの軽減や疲労回復をもたらしてくれるのです。
さらに、心地よい皮膚へのお灸は、脳内でのα波を優位にします。
α波は、心身ともにリラックス状態の時にみられる脳波です。
身体に慢性的な痛みがある時は、心身ともに緊張状態にあります。
身体の痛みを和らげる為には、心身の緊張状態を和らげることが大切です。
心身のリラクゼーションが必要なのです。
心地よいお灸は、心身のリラクゼーション効果をもたらしてくれます。
お灸をすえることで、身体の痛みを和らげ、血行が良くし、そして心身のリラックス効果を得ることが出来るのです。
心身のコンディショニングとして、お灸を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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