鍼には、体内に刺入する「刺す鍼」と体内に入れずに皮膚を擦ったり押したりする方法で行なう「刺さない鍼」に分類されます。
鍼といえば、一般的に「刺す鍼」をイメージされると思います。
そして、皆さまがイメージされている鍼の形状は、毫鍼と呼ばれている鍼です。
「刺す鍼」以外にも、ローラー鍼やてい鍼などの「刺さない鍼」もあります。
「刺さない鍼」は、体内に刺入せず、鍼で優しく皮膚を擦ったり押したりするなどの触圧刺激を与えます。
「刺さない鍼」は、「刺す鍼」と同様に、痛みを和らげる効果があります。
今回は、「刺さない鍼」における「鎮痛効果」について、お伝えします。
ヒトの身体には、「感覚受容器」と呼ばれる刺激様式に応じた感覚のセンサーがあります。
例えば、皮膚を擦られたり指圧されたりするなどの触圧刺激に対するセンサーである「触圧受容器」、熱さや冷たさを対してのセンサーである「温度受容器」などです。
また、「触圧受容器」や「温度受容器」の他にも、「ポリモーダル受容器」と呼ばれる感覚受容器があります。
「ポリモーダル受容器」は、皮膚や筋肉、そして関節などに分布しており、刺す鍼(毫鍼など)や刺さない鍼(てい鍼やローラー鍼など)の鍼刺激によって、興奮する感覚受容器です。
「触圧受容器」と「ポリモーダル受容器」の興奮は、身体の痛みの軽減効果をもたらしてくれます。
ローラー鍼やてい鍼などの「刺さない鍼」で皮膚を擦ると、刺激部位付近での「触圧受容器」が興奮します。
「触圧受容器」が興奮することで、刺激部位付近での鎮痛効果が発現されます。
「触圧受容器」の興奮による鎮痛の機序を「脊髄分節性鎮痛」といいます。
「脊髄分節性鎮痛」は、分かりやすくいうと、「痛い痛いの飛んでけ」です。
「痛い痛いの飛んでけ」は、決して気のせいではなく、しっかりとした根拠があるのです。
また、皮膚や筋肉に鍼刺激を与えると、「ポリモーダル受容器」か興奮します。
「ポリモーダル受容器」が興奮すると、その鍼刺激は、脊髄を介して、脳内に到達します。
脳内で、β-エンドルフィンやエンケファリンなどの鎮痛物質が分泌され、鎮痛効果が発現されます。
「ポリモーダル受容器」の興奮による鎮痛は、主に毫鍼などの刺す鍼による鍼刺激によって、行われているといわれています。
しかし、毫鍼などの「刺す鍼」での鍼刺激だけでなく、ローラー鍼やてい鍼などの「刺さない鍼」での皮膚刺激によっても、「ポリモーダル受容器」が興奮されます。
個人的な意見になりますが、「刺さない鍼」による皮膚刺激でも、β-エンドルフィンやエンケファリンなどの鎮痛物質が分泌されるのではないかと推測します。
鍼治療を行う際は、「触圧受容器」と「ポリモーダル受容器」の両方を興奮させる目的で、「刺す鍼」と「刺さない鍼」を上手に併用させることが有効であると考えています。
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